機能性ディスペプシアに街の鍼灸師が迫る!
機能性ディスペプシアと鍼灸治療の考察と実際
機能性ディスペプシア(以下:FD)と言われてもピンとこないかもしれません。
なぜならFDという診療病名自体用いられるようになったのが2013年6月6日アコチアミド(薬)の発売とともに実地診療でも用いられるようになった言葉なので歴史は比較的浅く、聞いたことがないという方も多いです。
ですが半年前からみぞおちが痛む。食後に胃がもたれたり、すぐにお腹が張ってしまう。
でも病院に行って検査をしても原因がよくわからない…。
そんな経験はありませんか?
その場合、FDである可能性もあるかもしれません。
ここではFDと鍼灸施術について街の鍼灸師であるフルミチ鍼灸院の杉山が解説・考察していきます。
FDに対する当院の取り組み
2024年73回全日本鍼灸学会学術大会宮城大会にて「鍼灸治療が著効した機能性ディスペプシア患者の1症例」を学術発表しております。
院長杉山の学会発表の様子
発表証明書
FDは症状の改善=疾患の改善ですのでFDの改善例を報告しました。
診療ガイドラインでも推奨されているGSRSという評価スケールを用いて症状の改善度合いを数値化、グラフ化して発表してます。
つまり、FDが鍼灸施術で奏功する治験はあるということです。
機能性ディスペプシアとは??
定義としては「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにも関わらず慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患.」となります。
FDの分類、自覚症状、頻度、FDの特徴を図でまとめました
FDを大きく分けるとEPSと呼ばれる心窩部痛症候群とPDSと呼ばれる食後愁訴症候群に分けられます。
自覚症状として前者はみぞおちの痛み、みぞおちが焼けるような熱感、後者は食べたものが残っているような感じ、食事をしてもすぐにお腹が一杯になります
これらの症状がひとつでもあり、EPSは週1回以上、PDSは週2回以上。
そして半年以上前からあり、直近では3ヶ月以上わたって慢性的に続くもの。
内視鏡や胃カメラ、血液検査をしても器質的な問題はみられないことが特徴です。
医療機関では胃酸分泌抑制剤、消化管運動機能改善薬、漢方薬(六君子湯など)が処方され、それでも改善がみられない場合は抗不安薬や抗うつ薬が処方されます。
機能性ディスペプシアの胃では何が起きている??
①食後に胃が膨らまない
消化管の運動機能が低下していると胃が膨らんでくれないような状態になっています(胃の適応性弛緩障害)
胃が膨らまないので、食べ物を食べたらすぐにいっぱいになってしまう状態です。
膨らんでくれない袋に物を詰めたらすぐにいっぱいになるような感じです。
②胃の動きが悪く食べ物が渋滞
本来、胃は動いて食べ物を細かくして胃酸と混ぜて消化しやすくします。
しかし、FDの時はこの動きが低下しているので食べ物が排出できません。
その結果、胃もたれやお腹が張っているように感じられてしまいます。
③胃の粘膜の知覚過敏
胃粘膜が刺激に敏感になっています。
胃酸の多さの問題もあるが、さらに胃酸に対する知覚過敏になっていることが問題と言えます。
これは胃の伸展刺激によって知覚過敏が引き起こされると考えられています。
なぜFD症状が発現されるのか?
FD症状があるときの胃の状況は先ほど説明しました。
ではなぜそのような胃の状態になり、なぜFD症状は発現されるのか?
考察をすると以下のようになります。
一番最初のきっかけを身心のストレスとしました。
ストレスを感じることで筋肉が緊張をします。
そのため痛みを感じるなどして交感神経優位になります
交感神経が優位になれば消化機能は低下しますので胃の動きは悪くなり、胃酸や脂質に対する知覚も過敏になり、さらに胃酸の分泌が過剰になります。
結果FD症状が発現すると考えられます。
鍼灸治療の実際と考察
機能性消化管疾患診療ガイドライン2021には提案や推奨はないが鍼治療の有用性を示唆する記載があります。
上記、機能性ディスペプシアの胃では何が起きているかの項目を参考に考えると”胃の動き”がポイントであるとも言えます。
胃の動きが良い状態であれば胃も膨らみ、内容物の排出もスムーズになり、胃の伸展刺激に対する過敏な状態も解決しやすくなります。
そこで鍼灸治療の出番です。
鍼灸治療でのFD症状の改善を考察してみました。
鍼灸治療をすることで胃に関わるお腹や背中の緊張が緩みます。
副交感神経優位になり、胃の動きが良くなり、内臓の知覚過敏や胃酸の分泌が正常化、消化機能が改善し、結果FD症状の改善がみられます。(体性-自律神経反射)
なぜ鍼灸だからできるのか?
病院のお薬で改善する例は非常に多いです。
実際に漢方薬の六君子湯もエビデンスがあるほどです。
鍼灸院にいらっしゃるFD患者さんはすでに投薬による治療をされています。
ですがそれでもお悩みを抱えられて鍼灸院にご来院されます。
鍼灸治療を受けたら嘘のように改善がみられたということも珍しくありません。
なぜでしょうか?
これは私なりの考察になるのですが自律神経へのアプローチに対して鍼灸治療は非常に長けていることと、投薬などの西洋医学的なアプローチですと分業になるからなのではないかと考えてます。
自律神経へのアプローチは鍼灸治療のお家芸です。
また、分業とは筋肉の硬さは整形外科的な筋弛緩剤、不安を抱えられていたら心療内科的な抗不安薬、胃の症状に関しては胃酸分泌抑制剤、消化管運動機能改善薬というようにぶつ切れでのアプローチになります。
いわば点です。
仮に筋肉の緊張も強く、不安を抱えられていて、胃の症状もあるというFD患者さんがいらした場合、鍼灸治療では全てを包括して行うことができる。
点ではなく線であり、面であるとも言えるでしょう。
そのような考えからFDと鍼灸治療は非常に相性が良いと考えられます。
FDで悩まれている方の選択肢のひとつとして鍼灸治療をぜひ候補に入れて頂き未来の明るい光になれば幸いです。
参考文献
参考:日本消化器病学会(編).機能性消化管疾患ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD). 第2版. 南江堂.
参考:「胃腸がつらい」が続くあなたへ. 機能性ディスペプシアかIBSかも. ライフサイエンス出版
参考:「FD診療のすべて」.ヴァンメディカル出版
参考:全日本鍼灸学会雑誌69巻4号 「胃膨満感および胃痛を訴える患者1症例に対する鍼治療の経験」
参考:平成31年名古屋大学「ストレス下での持続的な筋緊張が慢性的な痛みにつながる仕組みを解明」
提供:フルミチ鍼灸院