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メニエール病と突発性難聴 原因と治療法を鍼灸の立場から解説

メニエール病と突発性難聴 原因と治療法を鍼灸の立場から解説

メニエール病と突発性難聴、どっち?

今回は、よく似た「メニエール病」と「突発性難聴」について書きます。どちらも、鍼灸院で対応している症状で、うちでもよく診ています。

たいてい、最初に病院で診断してもらうと思います。その時に「メニエール病」や「突発性難聴」と診断されるわけですが、そのまま治癒してしまうこともあれば、そうでない場合もあります。そうでない場合、ネットで治療法を探して鍼治療にたどり着く方も少なくありません。うちにいらっしゃる方は、そうした方々です。

経過を伺ったときに、医師の診断が「メニエール病」と「突発性難聴」で分かれていることがあります。あまり気にされない方がいらっしゃるいっぽうで、病名がはっきりしないことで悩み、病院を転々とされている方もいらっしゃいます。

結論から書くと、診断が分かれていても気にしなくてもよいのです。その理由をこれから詳しく説明します。

 

病名と原因の関係はありそうでない!?

それでは病名と原因の関係を考えてみましょう。

こちらの表をご覧ください。NHKの「きょうの健康」で使われた表です。

メニエール病と突発性難聴の比較(NHKより)

画像:きょうの健康(NHK)


お気づきになったでしょうか。「原因」という項目がありません。「きっかけ」という表現を代わりに使って、あえて「原因」という表現を避けたのだと思います。この表によると、メニエール病も突発性難聴も、きっかけは「ストレス・疲労など」となっています。

ストレスや疲労と説明されると、そうなのかと納得しそうになりますが、よくよく考えて見ると曖昧な表現です。体で何が起きたのか具体的な説明ではありません。「原因はわかりません」という表現を避けるために「ストレスや疲労」がよく使われます。

メニエール病名は、フランスの医師プロスペル・メニエールが1861年に初めてめまいの原因の一つに内耳性のものがあることを報告したことに由来しています(Wikipediaより)。こちらは、命名者の名前がそのまま病名になっています。

いっぽう、突発性難聴の「突発性」は、そもそも原因がわからないときに使われます。つまり、突発性難聴は「突然発症する原因不明の難聴」です。病名そのものが「原因不明」を表しているのです。病名がわかれば原因がわかり治療法もわかるというわけではありません。

つまり、メニエール病と突発性難聴、どちらに診断されたとしても原因ははっきりしないままです。次にそれぞれの治療法について一般的なものを説明します。

メニエール病と突発性難聴の治療法

一般的な治療法をまとめました。鍼治療もその一つですが他の選択肢もあり、医師から提案されることがあります。

メニエール病と突発性難聴の一般的な治療

こうしてみるとよくわかるように、利尿剤とステロイドで分かれています。メニエール病は、内耳の浮腫(つまり余分なリンパ液がたまっている)を取ろうという意図があります。

原因は浮腫と言えなくもありませんが、その浮腫がなぜ起きるのかがはっきりしていません。浮腫(余計な水分)を取るために利尿剤が処方されます。ただ、利尿剤は尿の排出を促すものですから、内耳に作用する薬とはいえません。

突発性難聴でよく使われるのはステロイドです。ステロイドには炎症や免疫を抑える作用があります。炎症を抑える効果が内耳に働いて改善すると考えられています。自己免疫疾患にステロイドを投与したら、難聴が改善したことに由来しています。効果があったとしても、その効果のメカニズムははっきりわかっていないのです。使うと効果が出る場合があるとい理由で使われています。

耳の症状に限らず、詳細なメカニズムがわからないまま使われている薬は無数にあります。薬はそういうものです。 

突発性難聴と低音型感音性難聴の違い

突発性難聴とよく似た症状に低音型感音性難聴というのがあります。これは「蝸牛型メニエール」と呼ばれることがあります。「めまいを伴わないメニエール病」という位置付けです。

メニエール病と低音型感音性難聴と突発性難聴には共通点がある

医師が診断をするとき、めまいの有無を問診で確かめます。表の通り、めまいがあればメニエール病か突発性難聴、なければ低音型感音性難聴を疑います。

めまいの他に、再発を繰り返すかどうかも判断の基準になります。

メニエール病、突発性難聴、低音型感音性難聴の比較表

この再発について、突発性難聴になって聴力が回復すると二度と聴力が低下することがないと勘違いをされている方がいらっしゃいます。聴力が回復したあと、再び聴力が低下すると「突発性難聴ではなくメニエール病か低音型感音性難聴ではないかと思ってしまうのです。

ここでいう再発は、症状が出たり引っ込んだりすることを指します。日や週によって調子が異なったりすることです。症状の程度に波があるということなのです。突発性難聴から聴力が回復し、何年か経った後に再び聴力が落ちることはあり得ます。骨折した人が治ったあと、再び骨折することがあるのと同じ理由です。

「再発はしない」という表現は誤解を与えるので、医学的には正しいかもしれませんが、患者さんに伝えるにはふさわしくない表現でしょう。

難聴には、伝音性難聴と感音性難聴がある

ここで紹介した3つの難聴(メニエール・突発性難聴・低音型感音性難聴)は、すべて感音性難聴に分類されます。感音性難聴は、主に内耳に原因がある難聴です。外耳と中耳に原因がある場合は伝音性難聴と言われます。伝音性難聴の原因は、耳垢、中耳炎、鼓膜損傷などです。聴力の回復が期待できます。この記事で取り上げている感音性難聴は、聴力の回復が比較的難しいと言えます。早めに治療を開始することで改善率を上げることはできますが、100%ではありません。

鍼治療も早く始めるほど改善率を上げることができます。病院の治療と並行して行うことができます。最近では鍼治療の有効性が医師にも知られるようになっているため、医師がすすめることもあります。

伝音性難聴と感音性難聴の原因

伝音性難聴と感音性難聴の原因の違い

感音性難聴の鍼治療

ここから鍼灸師の立場から感音性難聴の治療について述べます。結論から書きますと、鍼治療は選択肢に入れた方がよいです。特に、突発性難聴が疑われたり診断された場合は、一日でも早く受けることを強くおすすめします。時間が経って固まったコンクリートの形を変えられないように、時間が経った症状を変えることは難しいのです。繰り返しになりますが、突発性難聴は時間との勝負です。

「薬をしばらく飲んでいたのですが治らなくて…」といったように発症から1ヶ月以上経ってから相談をされる場合も少なくありません。薬を飲みながら様子をみてみたいお気持ちはわかりますし、鍼灸院に不安を抱くのが普通の感覚だと思います。

鍼が怖いと思っても、病院の治療を始めてすぐに改善が見られない場合は、ただちに鍼灸院を調べてほしいと思います。聴力が回復するパターンは、発症後2~3日以内に改善の兆候が見られることが多いです。つまり、2~3日で改善が見られないという場合、別の手も視野に入れる必要があるように思います。

必ず、担当医に「この薬で治る確率はどれくらいでしょうか?」と質問してください。一般的に病院で突発性難聴が改善する確率は3割前後と言われています。

つまり、突発性難聴になった方の7割が治らずに悩んでいる現状があります。聞こえにくい不便さはもちろんですが、耳閉感や耳鳴りのつらさを訴える方がとても多いです。どちらも、聴力が低下したことで生じている感覚ですので、聴力が回復すると軽くなっていきます。

鍼灸院を探すのはたいへんかもしれませんし、どこがよいのかわからないと思います。ただ、悩んでいる間に時間が過ぎてしまうのが一番よくありません。腕のよい鍼灸師を探すことより、1日でも早く受けることを考えてください。気になる鍼灸院があったら、あなたと同じような症例があるか問い合わせてください。

ここまで、感音性難聴の中でも時間の制約が強い突発性難聴について説明してきましたが、メニエール病や低音型感音性難聴であっても、早めの治療が大切です。難聴が重くなったり軽くなったりを繰り返しているうちに、聴力が低下してしまう場合もあります。鍼灸院を選択肢のひとつに入れてみてはいかがでしょうか。突発性難聴と比べて改善率が高いです。

鍼治療の血流改善効果

鍼をすることで内耳の血流改善を期待できます。鍼灸師によっては耳の周辺に鍼をしますが、直接内耳に届くような鍼をすることはありません。私の場合、耳の周辺のツボはほとんど使いません。耳から離れたところにも内耳に作用するツボがたくさんあるからです。

なぜ、内耳に作用するのか、その詳細なメカニズムは明らかになっていません。難聴が改善するという事例から逆算して内耳に作用しているようだと言えるのです。

鍼治療のイメージ

血流改善を促すことで、蝸牛のような組織に酸素や栄養が十分に届きます。また、リンパ内に貯留している余分な水が排泄されやすくなります。適切なツボを選ぶ上で私が特に意識しているのは顎関節です。耳の穴の中に指を入れて口を開閉すると顎関節の動きが伝わってきます。もっとも耳の近くにある関節が顎関節なのです。

ですから内耳は顎関節の影響を受ける可能性が高いのです。しかしながら、病院においては、難聴は耳鼻科で顎関節は口腔外科です。耳鼻科の医師は顎関節に注目することがほとんどありません。ここが盲点であるように思います。

耳たぶの後ろから顎関節に触れてみると、難聴になっている側の関節が狭くなっていることが多いのです。関節周辺の筋肉が硬くなって関節の隙間が詰まっているのです。実際に、顎関節症を患っている方もいらっしゃいます。

このように考えると、顎関節の緊張を解くということが内耳の血流改善につながるのです。ただ、顎関節に着目した鍼治療は主流とは言えません。大半が耳の周辺のツボを使っています。すでに、どんな方法であれ、1日でも早く受けることが大切です。

病名によって治療は変わるのか

冒頭に、医師の診断が「メニエール病」と「突発性難聴」で分かれていても気にしなくてもよいと書きました。なぜなら、治療の根本的な考え方は同じだからです。どちらに診断されていても休息が大切であることには変わりありません。また、鍼治療をする場合には、どんな診断がついたかではなく、実際に出ている症状を軽減させるように仕掛けて行くので、どのみち個別対応になります。

ツボはたくさんありますが、メニエール病のツボがあるわけではありません。メニエールによく使うツボを便宜的に「メニエールに効くツボ」と表現されることがあるだけです。突発性難聴でも同じです。私の場合、内耳の血流を促すために顎関節を重視しているので顎関節に関われるツボをメニエールや突発性難聴のツボとして使っています。

鍼治療のおすすめ頻度

多くの場合、一定期間の通院が必要です。突発性難聴と診断された場合は、週2~3回の通院をお願いしています。メニエールや低音型感音性難聴は週1~2回です。できるだけ短期間で改善できるように積極的に仕掛けます。とはいえ、毎日行う必要はありません。

仕事が忙しいという理由で通院できない事情を伝えられることもありますが、治療においてもっとも重要なのは休息です。忙しくて肉体が疲弊していれば回復が期待できません。そもそも、耳の症状は疲労が引き金になりやすいので、休まずに治そうと思うのは間違っているのです。家庭や職場の理解を得て休める環境を整えることがもっとも大切です。特に、睡眠が重要です。

まとめ

感音性難聴に分類される難聴を表にしてみました。一番右の「治療」をご覧になるとお気づきのように、共通点が多いです。使用する薬が利尿剤とステロイドで異なるだけで、基本的に血流改善に努めるということなのです。こうして考えると、血流改善を大得意としている鍼治療が役に立たないはずがありません。

もちろん鍼治療は万能ではありません。病院での検査や医師の診断があるという安心の上で行うことがたいせつです。

感音性難聴の一覧表

提供:養気院